2011-03-22

三茶の思い出 1


玉電で渋谷から来ると、三茶手前の三叉路の上に小屋があり、そこに転轍機を操作する男が座っている。信号機に合わせてそれを左右に切り替える。それで下高井戸へ行くか二子玉川に行くのかが決まる。
 まるで人生みたいだなと中学生になったとき思ったことがある。左へ行くはずが右に行く、そんな人生を送るのじゃないかと不安に思った時、玉電の運転手が床のペダルを踏んだ。警笛音に小屋の操作員が手を上げて詫びた。ボンヤリして切り替えを忘れたのだ。その運転手には見覚えがあった。来住野君の二階を間借りしていた金子という人だ。寡黙な人で髭の濃い青ぞり頬の小太りな独身男、来住野(きすの)君も昨年死んだ。

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