2011-06-11

三茶小の話16

裏門の近くに森戸さんの家があり、そこはお医者さん、その近くに凸型レンズを使って金属に文字を掘り込む作業場があった。朝板に並べた凸レンズと金属板をしっかり固定し、日の出ている間、それを並べている。酸で処理をするのか、いつも、その工場からは水が流れ出ていた。
森戸さんは同じクラス、大人しい子でいつも居るのか居ないのかがわからないほど。それでも勉強になるとハキハキと答えていた。あんじみよこという珍しい名前の子がいて、その子の家は中野君の家から改正道路を少し下ったところにあり、前が竹内鉄工所。生垣のある大きな家だった。
6年生の時、雪が降って体操の授業に雪合戦をした。あんじさんは雪を固めて玉を作った。それを男の子が投げ合ったのだが、あのころは結構寒く、地球温暖化などは夢のまた夢、こうした嘆きが来るとは少しも知らない。寒かったけどあの頃は楽しかった。暖房も火鉢しかなかったけど、子供は風の子で手袋もせずにはしゃいで廻った。
及川さんという子がキスノ君の家の近くにいて、この子の笑顔がとても可愛いかった。最近八千草薫っていう往年の女優が、健康食品のCMに出ているが、この女優の笑顔に及川さんが重なる。随分と逢っていないけど、変らぬ笑顔を見せていることだろう。キスノ君が死んだことをアーチャンに伝えてもらった。
友達が死ぬのは淋しいことだ。まして、死んで半年も経って知ったのはより淋しいものだ。生きていると何時でも逢えるような気になるけど、何時でも逢えるは何時も逢えないでもある。
同期会のチャンスを逃すことなく、逢っておきたい人との会話を楽しみたいものだ。あれがどうして、これがこうなってと、記録にも残らない記憶だけが頼りの話を。
キスノ君が生きてる頃、同期会の連絡で電話すると女房が出て、ひとくさり最近の出来事を批判がましく言う。聞くのに疲れを感ずるほどだが、死んでから電話したら、「あんないい人はいなかった」と、変われば変るもの。
女房と喧嘩ばかりしている人も、死ぬといい人になれる。もっとも死ねば仏になれる。仏ほっとけ、神かまうなって俚諺もある。死んでからいい人なんて言われないように、生きているうちから女房に孝行を尽くすべきかな。