2011-03-25

三茶の思い出4

大森屋洋品店の主人は映画「七人の侍」の野伏せりと同じ顔で、威圧感があった。そこを抜けて仲見世に入ると、帝京商業に進学した野球の上手な一塁手、中村くんのてんぷら屋があった。二階からいつもニコニコして下を見下ろす中村くんを思い出す。爽やかな笑顔の好人物だったが、いつしか消息が途絶えた。この人物も石塚先生のクラスだった。
 石塚先生というのは体育学校出で顔のデカイ割に目が小さくまるで渥美清のよう。が、その頃渥美清は映画に出てこない。ずっと後の時代で売れた。
 石塚先生は四組の生徒に組体操を教えていた。人間ピラミッドを作るのを近くで見ながら、一番下にいた生徒が力んで耐えているのがおかしくて笑ったら、それが悪いと石塚先生にビンタを喰らったことがあった。
 この石塚先生は奥井先生と結婚したが、バイクで怪我をして病院に入院、どういう訳か看護婦と出来て、駆け落ちをしたそうだ。そののち小田原だかで焼き鳥屋の店先で団扇を煽いでる姿を見つけた生徒がいた。そしてクラス会が開かれたという話を飯川くんから聞いたことがある。その石塚先生も亡くなったそうだ。
 三茶のことを思い出すと、安西薬局、石塚先生のビンタ、奔放な人生と連想ゲームのように頭のなかを記憶が走りぬける。まるで体操の先生に追いかけられて校庭を走る生徒のように。